雑学戦隊 ミトコンダー

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チンパンジーと人間の子を作ろうとしたイワノフの挑戦と、スターリンの野望

チンパンジー兵士n

人間と動物のキメラ(ひとつの生物の中に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じった状態)を作ろうとする試みは、世界各国で議論を呼んでいる。しかし、この嫌悪感に満ちた試みを1920年代に実行しようとした人物がいた。ソビエト連邦の生物学者イリヤ・イワノビッチ・イワノフだ。

ロマノフ朝で家畜の受精の仕事をしていたイワノフは、ソ連の誕生で職を失う。その後、イワノフは人間とチンパンジーの子ども「ヒューマンジー」を作るという計画を立て、政府に助成金を申請した。人間とチンパンジーの染色体はほとんど同じように見えるし、実験では人間の精子はチンパンジーの卵子の外層を突き抜けることができた。イワノフは多数の証拠をもとに、ヒューマンジーの誕生は可能だと判断した。そして驚くことに、この悪魔の計画は助成金を獲得したのだった。

資金を手にしたイワノフは、フランス領ギニアの霊長類調査基地で計画を実行する手はずを整えた。しかし基地にいたチンパンジーはどれも性的に未熟だったため、イワノフは毎日、メスの陰毛に月経血がついてないかを確認し続けた。3ヵ月後、ついに2匹のチンパンジーが月経を迎えた。イワノフは匿名のドナーから精液を採取すると、注射器に精液を入れてチンパンジーに近づいた。しかし2匹のチンパンジーは激しく抵抗し、子宮への注射は失敗。妊娠させることができなかった。その後、別の1頭に麻酔をかけて精液を注入したが、これも失敗した。

ギニアでの研究継続が難しくなったイワノフは、自力でキューバ人のスポンサーを見つけ、ハバナの民間の霊長類保護区で計画を実行しようとする。しかし、これも事前にアメリカのマスコミにばれて頓挫してしまう。

チンパンジーのハーレムを作り維持していくのは費用がかかるし面倒だと判断したイワノフは、計画を"あべこべ"にすることにした。チンパンジーの精子で人間を妊娠させることにしたのだ。ソビエト連邦・グルジアに作られた霊長類基地の協力を得て、チンパンジーの子を産んでくれる女性を募集した。しかし政府は「代理母に報酬を与えてはならない。ソビエト国家への愛国心から名乗り出たボランティアでなければならない」と決定。そのため代理母はなかなか見つからなかった。しかし、ついに志願者が現れた。彼女はイワノフにこんな悲痛な手紙を書いた。「私の人生はめちゃくちゃで、これ以上生きていても意味はありません。でも、こんな私でも科学に貢献できると思ったら勇気がわきました。どうか私の申し出を断らないで下さい」。

グルジアの霊長類基地のチンパンジーたちは寒さで次々に死んでいったが、幸いなことにオスが1頭だけ生き残った。イワノフはボランティアの女性をグルジアに連れていき、受精の手筈を整えた。しかし決行の直前、なんとそのオスも脳出血で死んでしまったのだ。精子を採取する間もなかった。

イワノフが別のチンパンジーを入手しようとしていたある日、彼はソ連の秘密警察に突然逮捕された。容疑は「反革命活動」だった。3年後、容疑は晴れたのだが、釈放される日の前日、イワノフは脳出血で死亡してしまった。

この話には後日談がある。ロシアの科学史家がソ連の記録保管所で発見した文書によると、イワノフの研究への資金提供を認めたのはスターリンだったというのだ。一部の歴史家は「スターリンはヒューマンジーを奴隷として使うことを思い描いていた」と主張した。この主張が現実味を帯びたのは、イギリスの「スコッツマン」誌がモスクワの新聞に語ったというスターリンの言葉を報じたからだ。「私が欲しいのは、痛みを感じず、抵抗力があり、食べ物の質に無関心な、無敵の人間である。…力持ちだが脳が未発達のヒューマンジーは、自殺することも反乱を起こすこともないだろうから、最適だ」。

今となってはその真偽は確かめられないが、本当だったとしても、スターリンのこの野望は失敗に終わっただろう。チンパンジーは温暖なグルジアの寒さでさえ耐えられないのに、雑種のヒューマンジーが冬季の戦場で生きられるとは思えないし、彼らが銃を撃ったり戦車を運転するのは無理だったろう。

でもこの実験で一番気になるのは「人間とチンパンジーの間で異種交配は可能か?」という点だ。生物学者の間では「人間とチンパンジーは染色体の数が違うし、遺伝的距離が遠いので難しい」というのが多数意見ようだ。でも「絶対に無理」と断言しているわけでもないみたいだから、可能性は少しはあるのかもしれない。確かめたくはないけど。